『薬屋のひとりごと』(薬屋)のやぶ医者がかわいいのは、猫猫(マオマオ)に頼る気安さと、好きなものへの反応が素直だからです。
「ヒロイン」はファンの呼び名だけではありません。原作者の日向夏さん本人が、「やぶは公式ヒロインです」と発信しています。
どじょうひげのおじさんが、壬氏(ジンシ)にはそわそわし、子猫には張り切る。猫猫のための世話では少し空回りする。気持ちが先に出てしまう人なんですよね。
ヒロインと聞いて、どじょうひげのおっちゃんにうなずく日が来るとは。薬と謎だけでなく、この医局の人選まで妙に忘れられない。
※アニメ第1期・第2期の場面と、Web版の内容に触れます。後半の西都編の一場面は、該当箇所の直前で範囲を示します。Web版・書籍版・アニメは構成や細部が異なります。
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やぶ医者は作者公認のヒロイン|かわいさを愛でる呼び方
やぶ医者の「ヒロイン」呼びには、作者本人の言葉があります。どじょうひげと医官の姿を思い浮かべたところへ、その一言。おっちゃん、なかなかの紹介をされています。
日向夏さんは2020年2月27日、小説9巻の発売告知に「やぶは公式ヒロインです」と添えました。新刊紹介へさらっと混ぜてくるのがいい。
壬氏や猫猫の新刊での様子に触れたあと、おっちゃんにもきっちり一言。作者の紹介を読んでいるだけで、やぶ医者の出番まで待ちたくなります。
ただし、作者の「ヒロイン」という呼び方と、作中での性別・役職は別です。やぶ医者は後宮で働く男性の医官であり、宦官です。
- 作者の呼び方:日向夏さんが「公式ヒロイン」と発信している。
- 作中での立場:後宮で働く医官。女性という設定を示す呼び名ではない。
- かわいさの見どころ:猫猫との気安い会話、壬氏への反応、子猫の世話など、日々の言動にある。
事件の答えを出す猫猫とは違って、おっちゃんは教えてもらう側に回る。驚いたり感心したりする相手がいるから、猫猫の無愛想な返事にも、会話の相手ができるんです。
やぶ医者はとても人のいい医官ですが、医術は頼りない。呼び名が散々でも、猫猫が茶飲み仲間として付き合う余地は、そこにあります。
医者としては心配になるのに、出てくるとうれしい。そんな相手が後宮に一人いるだけで、事件の合間のお茶の時間まで楽しみになります。
猫猫との医局が楽しい|警戒していた相手が、いつもの茶飲み仲間に
やぶ医者と猫猫の関係は、最初から気安かったわけではありません。猫猫の作る薬を見て態度を変え、やがて彼女を迎える医局には、お茶と会話の時間ができていきます。
Web版「8 薬棚」では、やぶ医者が猫猫を値踏みするように見ています。今でこそ茶飲み仲間ですが、出発点は、仕事場へ入ってきた見知らぬ小娘でした。
- 初めの医局:猫猫を警戒するように見ていた(Web版「8 薬棚」)。
- 薬を作る腕を知る:出来上がった薬を見て、態度が次第に柔らかくなる(「10 幽霊騒動その壱」)。
- 気軽に立ち寄る仲へ:調薬の相談だけでなく、一緒に食べる時間もできる(「15 炎」)。
- 顔を見せないと寂しい:三日ほどの間隔でも、久しぶりだと猫猫を迎える(「二十四、誤診」)。
薬棚へ来た猫猫を警戒していたおっちゃんが、薬を見て態度を変える。詳しい子が来たら、その腕を認める。上司の意地で張り合わないところが好きです。
猫猫にも、薬に触れられるという実利があります。お茶を飲みに来たからといって、薬棚への目配りまで忘れる子ではない。そのちゃっかりしたところも、二人の医局らしい。
松茸を持ってきたら、医官は調味料を取りに行く
Web版「15 炎」では、猫猫が採ってきた松茸を医局へ持ち込みます。そこでやぶ医者は、軟膏の調合を猫猫に頼む一方、松茸を食べるための準備には軽い足取りで動くのです。
| 同じ医局での用事 | 猫猫 | やぶ医者 |
|---|---|---|
| 手のかぶれへの対応 | 軟膏を作る | 猫猫に調合を頼む |
| 松茸を食べる準備 | 松茸を持ち込む | 調味料、炭鉢、網を用意する |
| 薬の腕を話すとき | 万能だと持ち上げられて困る | 猫猫なら何でも作れそうだと褒めすぎる |
松茸を食べたのは、猫猫とやぶ医者だけではありません。手を診てもらいに来た宦官まで一緒に、三人そろって共犯者。医局ぐるみで食べてしまった。
松茸が来た途端、調味料も炭も網もそろう。おっちゃん、その手際をさっきの調薬にも少し分けてほしい。
しかも「15 炎」では、ほかの宦官に猫猫の働きぶりを自慢します。猫猫が実の娘に接するようだと感じるほど。ただ、何でも作れそうだと褒めすぎるのは困りものです。
三日ほどで「久しぶり」になるおっちゃん
Web版「二十四、誤診」では、三日ほど顔を見せなかった猫猫を寂しそうに迎えます。猫猫には紙を分けてもらいたい用事があるのに、おっちゃんは会話不足の様子。
三日ほどで、もう「最近来ない」。いつもの席に来る人を待っている、その時間の数え方がかわいい。
その日は茶菓子と一緒に謎かけまで用意して猫猫を迎えます。薬の用事がなくても、聞いてもらいたい話がある。猫猫が席に着くまでの、おっちゃんの張り切りようがいい。
ところが、猫猫に答えを当てられると、出題した本人がふてくされます。「なんでわかるの?」。聞いてほしいけれど、すぐ解かれるのもつまらない。おっちゃん、注文が細かい。
猫猫は薬の前では目つきが変わる一方、こうした付き合いも続ける子です。猫猫のかわいさを、隣にいるおっちゃんへの応じ方から見るのも楽しい。
猫猫が薬を扱い、おっちゃんが迎える。医局の二人を漫画で追うなら、謎解きに入る前の応対も楽しみたいところです。
壬氏を前にすると反応が素直|猫猫との温度差までかわいい
やぶ医者のかわいさがよく出るのは、壬氏が医局へ来たときです。壬氏を迎えるおっちゃんと、普段どおりにしていたい猫猫。同じ客を前に、二人の反応がきれいに分かれます。
Web版「10 幽霊騒動その壱」では、猫猫へ煎餅とお茶を用意していたところへ壬氏が加わります。すると、おっちゃんは茶と菓子を上等なものへ替えてくるのです。
| 壬氏が来たとき | やぶ医者 | 猫猫 |
|---|---|---|
| お茶と菓子 | 白茶と月餅へ替える | 塩辛い煎餅のほうがうれしかった |
| 同じ席の空気 | 驚きと高揚が表に出る | 壬氏と同席する流れに困る |
| 奥の用事を頼まれると | 残念そうに奥へ向かう | 壬氏が本題を切り出す流れを察する |
おもてなしは上等になったのに、猫猫の煎餅は退場。壬氏が来ただけで、お茶請けの好みまで押し切られている。
けれど、お茶の席が続くわけでもありません。壬氏に品物を取ってくるよう頼まれると、おっちゃんは残念そうなまなざしで奥へ。さっきまで席を整えていた人が、今度は席を外す。
アニメでは「乙女な演技」が求められていた
アニメのやぶ医者にも、そうした素直な反応が生きています。壬氏役の大塚剛央さんは、かぬか光明さんが収録時に「乙女な演技」を求められていたと明かしています。
大塚さんのインタビューでは、作者のヒロイン発言にも触れながら、映像になったやぶ医者のかわいさや、医者らしからぬところへの愛着が語られました。
「乙女な演技」という注文を知ると、医官らしく重々しく話すことより、相手への反応が大切だったのだと感じます。壬氏に向ける一言や、会話から外されたときの声を聴きたくなる。
猫猫が淡々としている横で、おっちゃんは気持ちを表に出す。医局にいる全員が同じように壬氏へ反応しないから、顔ぶれがそろうほど会話が楽しくなります。
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第25話では子猫に夢中|猫の世話になると張り切る
猫好きのやぶ医者を見たいなら、アニメ第2期第1話に当たる、第25話「猫猫と毛毛」です。医官としての頼りなさとは違う、猫の世話に詳しい顔を見せてくれます。
第25話では、春の後宮に小さな珍客が現れます。その子猫を医局で預かることになり、猫猫とやぶ医者が世話をする。いつもの薬棚のそばに、世話を焼きたい相手が一匹増えました。
| 子猫のいる医局 | やぶ医者の姿 | 猫猫との関わり |
|---|---|---|
| 猫をかわいがる | 昔、拾った猫を飼った経験があり、世話の仕方を知っている | 薬とは違う得意分野を見せる |
| 必要なものをそろえる | 猫猫に頼まれたものを求めて食堂へ走る | 二人で子猫の世話を進める |
| 食事の用意 | 食べやすくするために餌を茹でる | 小さな相手に合わせた手間をかける |
薬では猫猫に頼るおっちゃんが、猫の世話なら経験者になる。得意分野が急に見つかるのがうれしい。人間の患者が来たときより、ずっと足取りまで軽そうです。
子猫に必要なものを求めて食堂へ駆け込むおっちゃん。薬のためには猫猫が医局へ来て、子猫のためにはおっちゃんが医局から出ていく。目的が替わると、動く人も替わります。
そこへ高順(ガオシュン)まで加わり、子猫をかわいがります。高順の几帳面な仕事ぶりを知っていると、医局で気が緩む姿との違いも楽しい。
猫猫だけを相手にした医局とは、少し違う空気です。普段は立場も仕事も違う大人たちが、一匹の猫に夢中になる。事件の捜査を追う目を、ここではその周りの顔へ向けたくなります。
猫の豆知識を楽しむなら、TOHO animationのミニアニメ「猫猫のひとりごと」第25話「三毛猫」もあります。本編の第25話とは別の短編です。
猫の名前が見出しにある回なのに、猫を見ている大人たちまで気になる。やぶ医者の好きなものへの反応は、壬氏のいる席だけに限りません。
猫猫と医官の付き合いを言葉でも追いたいなら、原作小説へ。猫猫の内心は辛口なのに、相手のそばへはまた行く。その言葉と行動のずれを読む楽しみがあります。
猫猫まで気を遣う相手|世話焼きが少し空回りする
やぶ医者は、猫猫から一方的に世話を焼かれるだけの人ではありません。相手を喜ばせようとして張り切ることもあり、その善意のずれに、今度は猫猫が言葉をのみます。
※ここからWeb版「西都編」の「十五、せんぶり」の内容に触れます。Web版の一場面で、書籍版・アニメとは構成や細部が異なります。
留守にしていた猫猫のために、やぶ医者が部屋の家具や飾りを増やしておきます。殺風景だった部屋を過ごしやすくしたつもり。そこまでは、ありがたい話です。
ところが、猫猫が扉を開けた先に待っているのは、以前の簡素な部屋とは、かなり違う景色でした。
| やぶ医者が整えたもの | 猫猫の部屋に増えたもの |
|---|---|
| 寝台 | 桜色の天幕。刺繍も施されている |
| 机と椅子 | 刺繍入りの卓布と、透かし編みの座布団 |
| 部屋の飾り | 花模様の織物、花の香り、乾燥させた薔薇 |
桜色に刺繍に薔薇までそろえて、おっちゃんは大満足。で、部屋に住む猫猫の好みは聞きました?
でも、笑って終わるのは早い。背後には、気に入ってくれたかと期待するやぶ医者がいます。猫猫はそこで、すぐに全部を取り替えてしまえません。
- やぶ医者は、猫猫に喜んでもらえる部屋を用意する。
- 猫猫が戻り、思いがけずかわいらしい室内を目にする。
- 期待のまなざしを向けられ、猫猫はその場で強く言えない。
- あとで猫猫は、やぶ医者が悲しまないよう、少しずつ模様替えしようと考える。
猫猫は少しずつ模様替えをするつもりでいます。すぐ変えればやぶ医者が悲しむから。部屋が好みではなくても、用意してくれた人には気を遣う。
医術には遠慮がないのに、部屋の飾りには気を遣う。
しかも、模様替えを諦めたわけでもありません。少しずつ、気づかれないように。おっちゃんの善意と猫猫の好み、その両方を残そうとした解決策が、妙にこそこそしています。
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まとめ|やぶ医者のかわいさは、好きな相手への反応に出る
やぶ医者は、作者が「公式ヒロイン」と呼ぶ医官です。医術の頼りなさを残したまま、猫猫との会話や壬氏への反応、子猫の世話で、つい目を向けたくなる人になっています。
やぶ医者が張り切ったら、猫猫の顔も一緒に見ておきたい。上等なお菓子も、かわいい部屋も、おっちゃんにとっての大成功と猫猫の希望は、少し違うので。
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