『ホタルの嫁入り』13話「脆い糸」は、紫たちに針と糸で脅された紗都子が、取り巻きの二人を味方に変える回です。最後は針と糸を手に「お裁縫は得意なので」と笑います。
その夜、進平は屋根の上で三枝に呼び止められ、場所を変えたまま戻ってきません。紗都子はひとりで紫の針と向き合うことになります。
読みどころは、脅されている最中の紗都子が「ぷっ」と吹き出すところ。本気で怖がっていたはずが、怖くない理由のほうを見つけてしまいました。
針と糸を握っていたのは、前半は紫、最後のページでは紗都子。26ページで、道具の持ち主が入れ替わりました。
※この記事は原作漫画第13話までのネタバレを含みます。
この記事でわかること
| 人物 | 立場 | 13話での関わり |
|---|---|---|
| 紗都子 | 余命わずかな令嬢。天女島の遊女屋で新入りとして働く | 12話で嘘を明かしても進平に見放されず、その夜に紫たちに襲われる |
| 進平 | 天女島で生まれ育った殺し屋 | 屋根の上から紗都子の部屋の窓を見ていたところを、三枝に呼び止められる |
| 三枝(みつえだ) | アニメ公式の紹介では、紗都子の誘拐を依頼された天女島のヤクザ | 手下を大勢殺された件で進平の前に現れ、場所を変えようと誘う |
| 紫(ゆかり) | 店で二番目の売れっ子の遊女 | 物置の件を聞き、針と糸を持って紗都子の部屋へ押し入る |
| 早蕨(さわらび)・初音(はつね) | 紫に従う遊女 | 紫の命令で紗都子を押さえるが、最後は紫を押さえる側に回る |
| 環(たまき) | 遊女屋の遣手 | 本人は出てこない。紗都子が名前を出し、三人を揺さぶる |
『ホタルの嫁入り』13話のネタバレ|「一緒に寝る?」の夜から、針と糸を持った紗都子まで
13話は、12話の物置の一件があった夜の話です。進平が三枝と場所を変えた後、紗都子は紫たちに襲われ、最後には立場を入れ替えてしまいます。
- 部屋の前で進平に「一緒に寝る?」とからかわれ、紗都子は「寝ません!」と戸を閉める
- 騙していたのに許され、見放されなかったことが嬉しい。紗都子は戸の内側で座り込む
- 屋根の上から紗都子の窓を見ていた進平に、三枝が声をかける。手下を殺された件を持ち出し、場所を変えようと誘う
- 眠れずにいた紗都子の部屋に紫・早蕨・初音が押し入り、口をふさいで引き倒す
- 紫は針と糸で紗都子の体を縫い塞ぐと脅し、その針を早蕨に渡して「お前が縫いな」
- 早蕨の手が震えるのを見て、紗都子が吹き出す。自分でやらない紫を、かえって怖くないと見抜く
- 遣手の環の名前を出し、次に問題を起こせば三人の身が危ないと揺さぶる。早蕨と初音に「紫さんを押さえて」と頼む
- 紫は「深い絆」を持ち出して笑うが、紗都子は二人に「闘って人生取り戻してください!」
- 臆病と言われた紫が早蕨の髪をつかむと、早蕨が叫んで紫にぶつかり、初音も紫を押さえる
- 押さえられた紫の前で、紗都子が針と糸を張って「お裁縫は得意なので」と笑う
物置で嘘を明かしてから進平が戻ってくるまでの12話は、『ホタルの嫁入り』12話の感想・考察で追っています。
第13話「脆い糸」は、マンガワンのアプリで2023年6月4日の夜からコメントが付き始め、6月19日に通常公開されました。
コメントが付き始めた翌日、6月5日の昼前には、作者の橘オレコさんが更新を告知しています。添えられたのは、暗闇から伸びる手に囲まれた紗都子でした。
この絵は13話の5ページ目。物音に「進平さん…?」と顔を上げた直後です。ここだけ見るとホラーですが、この手の持ち主のうち二人は、最後に紫を押さえる側へ回ります。
「許されてしまった」夜|窓を見ていた進平と、三枝の「場所変えるか?」
13話の冒頭の紗都子は、進平に許されたことに戸惑いながら、うれしさを隠せません。そのころ屋根の上の進平の前には、三枝が現れます。
部屋の前で、進平がさらっと「一緒に寝る?」。紗都子は「寝ません!」と戸を閉め、戸の内側に座り込んで大きく息をつきます。
続くページの語りは「許されてしまった」。許されて喜ぶのではなく、「しまった」と書くあたりに、甘えていいのかという迷いがにじみます。
島を出たらどうお礼をすればいいのか、考えることは山ほどある。それでも最後の一行は、見放されなかったことがこんなにうれしい、でした。
紗都子がまだ名前を付けかねているその気持ち、コメント欄では「大好きじゃん」の一言で片づけられていました。
その窓を、進平は屋根の上から見ていました。そこへ背後から「よう」。三枝の第一声は「覗きか?趣味悪ィな」です。
三枝は「うちの下っ端 あんだけ殺っといて」と進平に絡み、紗都子に見られたらまずいだろうと場所を変えようと持ちかけます。
「あの時 以来だね」という言葉と短い回想も挟まり、二人に以前からの因縁があることが分かります。
アニメ公式の人物紹介では、三枝は「何者かから紗都子の誘拐を依頼された天女島のヤクザ」。進平はその三枝から殺害を頼まれた側です。13話の本文では、そこまでは語られません。
アニメで三枝を演じるのは津田健次郎さん。放送と配信の予定はアニメの配信情報をまとめた記事にあります。
進平は返事をせず、三枝について行きます。13話の進平の出番はここまで。紗都子の部屋で起きることを、進平は何も見ていません。
「覗きか?」とからかわれて窓の前を離れたら、その窓の向こうで本番。「しんぺーさん肝心な時に見てない」に5,000を超えるいいね、ごもっともです。
針を向けられた紗都子が笑った理由|「本気の人間は目も表情も違う」
紗都子が笑ったのは、紫たちに「本気」がないと見抜いたからです。攫われ、襲われ、殺されかけた経験が、ここで役に立ちました。
押し入った紫は、物置で進平と何をしてきたのかと責め、「進平様は 私のものなんだよ」。手には針と糸。二度と悪さができないよう、体を縫い塞いでやると言い出します。
大声を出したらこの針で目を突く、という脅しまで付いて、紗都子の心の声は「この人たち本気で…!?」。ここまでは、紗都子も本当に怖がっています。
空気が変わるのは、取り巻きの一人が「本当にいいのかい?」とためらった時です。紫は、毎回客を譲ってやっている恩を持ち出して黙らせ、針を早蕨に渡して「お前が縫いな」。
紫は早蕨に、自分の力で客を取れるのかと畳みかけます。針を持つ早蕨の手は震えていて、そこで紗都子が「ぷっ」。
何を笑っていると詰め寄られた紗都子の答えは、恐ろしいことをされると思ったら安心してしまった、でした。続けて「人任せにせず ご自分でされたらいいのに」。
脅し文句も小道具もそろえたのに、針だけは人に持たせる。紫、いちばん大事な一針で手を引いています。
紗都子はそこから三つ問いかけます。誰かに攫われたことは。集団で襲われたことは。殺されそうになったことは。
三つとも、紗都子が1話から経験してきたことです。心の声は「本気の人間は目も表情も違う」「行動に迷いがない」。本気の人間を見てきたから、ためらう人間が分かる。
1話で紗都子は男たちに攫われ、牢では手下に襲われかけ、九時になったら殺される段取りでした。その夜の話は『ホタルの嫁入り』1話の感想・考察にあります。
同じページの心の声には「あの人に守ってもらうだけの私でいてはいけない」もあります。3話の紗都子が聞いたら、たぶん目を丸くします。
| 話数 | その時の紗都子 | 支えにしたもの |
|---|---|---|
| 3話 | 見放されないよう、進平に「あなただけが頼りなんです」と返す | 進平 |
| 4話 | 天女島で置いていかれ、「自分がこんなに無力だなんて」と悔し泣きする | 令嬢として身につけてきた舞 |
| 12話 | 刀を抜いた進平に、最初の威勢のよさも強がりかと言われる | 進平(脱出の手伝いを引き受けてもらう) |
| 13話 | 針を向けられても、守ってもらうだけの私でいてはいけないと考える | 自分の経験と、敵の取り巻き |
12話の進平は、うつむく紗都子に、最初に助けた時の威勢のよさも強がりかと言いました。13話の紗都子は、針の前で「震えたりなんかしません」。
あの威勢は強がりではなかった。それを、進平のいない部屋で証明してしまいました。
4話の紗都子は、無力さに泣いたあと、地面に落ちたご飯を食べて舞いました。生き抜く力がないなら今からつければいい、と決めた回です(4話の感想・考察)。
「あなただけが頼り」の3話も、地面のご飯の4話も、原作1巻に入っています。13話の三つの問いの後に戻ると、紗都子が何をくぐってきたのかがよく分かります。
「闘って人生取り戻してください」|環の名前と一言で、紫の「深い絆」がほどけるまで
紗都子は遣手の環の名前で三人を揺さぶり、早蕨と初音に助けを求めます。最後は一言で、二人を紫から引きはがしました。
まず「これってバレたらどうなるんですか?」。三人はしょっちゅう問題を起こしては折檻部屋に入っている、と紗都子は環から聞いていました。
環が腹を立てていて、次は加減を間違えて殺してしまうかもしれない、とまで言っていたこと。それを伝えた上で、「私が環さんに言ったら お終いですね」。
遣手は、遊女屋で遊女たちを監督する女性の役目です。営業に反する遊女を折檻する役として描かれることが多い、と辞典にもあります(コトバンク「遣手」改訂新版 世界大百科事典)。
紫に逆らえば店にいられない。でも紫に従えば、今度は環に殺されかねない。紗都子は、二人が誰を怖がるべきかを並べ直して見せたわけです。
そして早蕨と初音に「二人で紫さんを押さえてください」。紫は高笑いで返し、こいつらは元の遊女屋でも客を取れずにここへ流されてきた、ここは最後の砦だと言い放ちます。
面倒を見てやる代わりにどんな頼みでも聞く。紫はそれを「私らは深い絆で結ばれているんだ」と呼びました。
紗都子の返しは「バカバカしい」。紫に生きろと言われたら生きて、死ねと言われたら死ぬのか、と問います。紫が笑ってごまかしかけると、「あなたには聞いていないんですよ」。
こんな人に意志を委ねないで、生きていられる時間は有限だ。そう重ねた先が、20ページの大きなコマの「闘って人生取り戻してください!」です。
「生きていられる時間は有限」は、余命を告げられている紗都子の口から出る言葉です。12話で、結婚まで命がもてばいいと話していた人が言うと、ほかの誰が言うよりも重く聞こえます。
ただ、二人はまだ動きません。決め手になったのは紫自身でした。新人に負けている、意外と臆病なんですね、と紗都子に言われた紫は、早蕨の髪をつかんで引きます。
| 紫の言葉 | その後に起きたこと |
|---|---|
| この遊女屋で私に歯向かったら終わり | 早蕨と初音が二人がかりで紫を押さえる |
| 私らは深い絆で結ばれている | 早蕨の髪をつかんで「この腑抜け」「この先一生ね」 |
| 突っ立ってないでどうにかしな初音、でくの坊 | 呼ばれた初音が、紫を押さえる側に加わる |
お前は一生私に従っていればいい。その次のページで、早蕨が叫びながら紫に体ごとぶつかります。紫が初音に助けを求める言葉は「たまには何かの役に立て でくの坊」でした。
体当たりされながら、助けてほしい相手を「でくの坊」と呼ぶ。紫、こういう時に頼む言葉の持ち合わせがないんですね。
題の「脆い糸」は、針と糸のことだけではなさそうです。紫が「深い絆」と呼んだものは、恩と恐れで縫い合わせただけの糸だった。
早蕨が紗都子の足を引っかけて転ばせた10話の場面は、『ホタルの嫁入り』10話の感想・考察で振り返れます。紗都子を転ばせていた早蕨が、13話では紫にぶつかっていきました。
押さえられた紫が凄んでも、紗都子は「あらあら ご自身の状況をおわかりで?」。環さんの手を煩わせるのは申し訳ないから、ここで自分が対処する、と続けます。
針と糸を両手でぴんと張って、最後の言葉は「心配いりませんよ」「お裁縫は得意なので」。紫の針と糸で何をするのかは、13話では描かれません。
13話の読者の反応|いいねが集まったのは「心は強いヒロイン」と「進平に似てきた」
マンガワンの13話には1,000件を超えるコメントが付いています。いいねの多い順に並べると、最上位は紗都子の強さで、進平の出番の少なさを嘆く声が続きました。
| 書き込み | いいね |
|---|---|
| 「身体は弱い でも心は強いヒロイン」 | 13,314 |
| 「これはこれでスッキリなんだけど、進平さまが足りていません。もう一回前回の神回へ行ってきます!」 | 5,982 |
| 「しんぺーさん肝心な時に見てない」 | 5,390 |
| 「なんでこの漫画こんなにおもしろいんだろう、子育てしながらこれ描けるってほんと尊敬です」 | 4,157 |
| 「進平の目にハイライトが入ったり、今回は紗登子の表情が進平みたいだし、夫婦は似てくるって言うもんなー」 | 1,834 |
数で目立ったのは、紗都子の顔つきが進平に似てきたという書き込み。「さとこが進平化してきてる笑」など同じ趣旨が30件を超え、最後のページの目を挙げる人もいます。
12話の進平は、紗都子の瞳が好きだと言い、「俺の瞳とは全然違う」と付け加えていました。その次の話で、読者が紗都子の目に進平を見つけています。
「俺の瞳とは全然違う」と言われた次の話で、「進平みたいな目」と言われる。一話で寄せてきました、紗都子。
進平のほうの怖い目と表情は、進平の目と表情の魅力をまとめた記事で追っています。13話の最後のページと並べてみると、読者の言い分にも一理あります。
受け止めは割れています。令嬢が遊女に正論を言うのは傲慢、という書き込みに40を超えるいいね。暴行されている最中に相手を気づかう必要はない、という声にも同じくらい付きました。
「闘って人生取り戻してください」が自分に言われたようで響いた、という書き込みもあります。20ページの紗都子を名指しで「かっこいい」と書いた人もいました。
「紫、早蕨、初音、葵…源氏物語だ!」と気づいた読者もいます。早蕨・初音・葵は、どれも源氏物語の巻の名前と同じです(デジタル大辞泉「早蕨」ほか)。
遊女の呼び名を源氏名と言うのも、もとは源氏物語の巻名にちなんだ名前だったからです。13話で紫を押さえた二人は、名前だけなら源氏物語の巻から来た、由緒正しい遊女でした。
13話は原作3巻の最初の話です。12話で許された直後の夜から読むと、「許されてしまった」の迷いと、紫の前で笑うまでの変わり方が続けて追えます。
まとめ|13話は、守られるだけだった紗都子が、紫の針と糸を手にする回
『ホタルの嫁入り』13話「脆い糸」は、進平のいない夜に紫たちに襲われた紗都子が、震えずに相手を見抜き、取り巻きの二人を味方に変えて、最後に紫の前で笑う回でした。
12話で「強がりか」と言われた威勢が、13話で本物だと分かりました。いちばん近くで確かめたのは、進平ではなく、針を持たされた早蕨です。
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