『薬屋のひとりごと』の里樹妃(リーシュヒ)は、原作小説6巻で不義を疑われ、古い塔に閉じ込められます。そこで最上階から落ち、馬閃(バセン)に受け止められて命拾いしました。
騒ぎの責任を負う形で上級妃の座を降り、一年間の出家へ。検索で「追放」と言われるのは、この後宮からの退場のことです。
ただ、話はそこで暗く終わりません。10巻では、出家先で家鴨(あひる)の世話に打ち込む里樹と、馬閃がばったり再会します。
塔から落ちた元上級妃が、数巻後には家鴨の卵の温度を気にしている。こっちの里樹、ちょっと会ってみたくないですか。
アニメ第3期は2026年10月2日に始まり、10月6日時点では第49話「蝗」まで放送済み。塔の事件と出家は、まだ映像化されていません。
※この記事は原作小説6巻・10巻・14巻と、作者が公開しているWeb版のネタバレを含みます。
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里樹妃はなぜ塔へ?書き写した恋物語が「恋文」にされた
きっかけは、里樹妃が書き写していた西方の悲恋物語でした。それが「帝以外の男への恋文」と見なされ、不義の疑いへ転がっていきます。
里樹妃は5巻で西都への旅に加わり、6巻で都へ戻ってきます。長く後宮を離れた妃は、戻る前にしばらく外で過ごす決まりがありました。その待機中に、噂が一気に膨らみます。
- 西都から帰る:長く後宮の外にいたため、すぐには後宮へ戻れない
- 写本が外へ出る:書き写した悲恋物語が、恋文として外へ持ち出される
- 不義を疑われる:帝以外に想う相手がいるのでは、と疑いの目が里樹妃に集まる
- 塔に移される:かつて重い病人を隔離していた古い塔で、軟禁生活が始まる
- 同じ塔に白娘々(パイニャンニャン):都を騒がせた仙女も、この塔に閉じ込められていた
写していたのは、『ロミオとジュリエット』を思わせる西方の悲恋劇の訳本です。許されない恋が悲劇で終わる物語を、妃の手で書き写していた。疑う側には、これ以上ない材料に見えたはずです。
物語を写していただけで、恋文の書き手にされる。よりによって題材まで許されない恋。こういう運の悪さが、里樹妃にはずっとついて回ります。
写本を外へ流したのは、里樹妃の元侍女頭です。身内のはずの侍女が、主人を追い落とす側に回っていました。
塔で里樹妃のそばに残ったのは、侍女の河南(カナン)一人だけ。食事のお粥に砂利が混じるような場所で、眠るか食べるかの日々が続きます。
河南は、もとは毒見役として里樹妃をいじめる側にいた侍女です。のちに態度を改め、数少ない味方として里樹妃に仕えるようになりました。
ようやく味方になった河南まで、塔では信じきれなくなっていく。里樹妃をめぐる侍女たちのいじめと河南の変化を知っていると、ここが一番痛い。
後宮では侍女に軽く扱われ、外へ出たら写本で疑われ、行き着いた先が隔離の塔。不運の三段跳び、着地点がひどすぎる。
塔からの「飛び降り」は白娘々の香から|落ちた里樹を馬閃が受け止める
里樹妃が塔の最上階から落ちたのは、同じ塔にいた白娘々に心を削られた末のことです。里樹妃は死亡せず、馬閃に救われます。
白娘々は同じ塔の中から、幻覚を起こす香を里樹妃のもとへ送り込みます。言葉でも里樹妃の居場所を否定し、ぼんやりした頭を最上階へと誘っていきました。
意識がもうろうとした里樹妃は、最上階の露台から身を投げてしまいます。落ちてくる里樹妃を、身を挺して受け止めたのが馬閃でした。
里樹妃の命は助かり、代わりに馬閃が骨折を含む大けがを負います。痛みに鈍い体質の人ですが、さすがに満身創痍です。
「飛び降り」は、里樹妃が自分で選んだ死というより、香と孤立に追い込まれた末の転落として読む場面です。
白娘々はアニメ第3期で初登場した仙女で、キャラクターポスターには人の痛みを消す薬をうたう言葉が添えられました。
俗世の痛みを消す、ねえ。塔の里樹妃にやったことを知っていると、このうたい文句が素直に入ってきません。消すどころか、痛みをいちばん増やした相手です。
人を惑わす仙術の仕掛けや素性は、白娘々の正体と仙術のトリックで詳しく追えます。里樹妃一人を狙うには、手が込みすぎた相手でした。
馬閃、救い方が完全に体当たり。考えるより先に体が動いている。痛みに鈍い体質って、そういう使い方をするものじゃないから。
西都で獅子から守られ、塔の下でも受け止められる。小説6巻なら、お粥の砂利から露台までの日々を順に追えます。その分だけ、馬閃の腕に落ちる瞬間が重い。
「追放」の中身は上級妃からの退場と、一年間の出家
事件のあと、里樹妃は騒ぎを起こした責任を負う形で上級妃から外れ、一年間の出家に入ります。後宮を追い出された、という意味での「追放」です。
里樹妃にとって出家は二度目です。先帝の妃だった幼い頃、先帝が亡くなったあとに一度、尼寺へ入っています。
9歳で先帝の後宮へ入り、出家し、現帝の後宮へ戻り、また出る。まだ十代半ばで、後宮を二度も出入りしているんですよ。経歴だけ見ると、ほとんど大人の人生です。
| 人物 | 事件後の扱い | 期限 |
|---|---|---|
| 里樹 | 上級妃から外れ、出家する | 出家は一年間 |
| 馬閃 | 帝から、望むものを一つもらえる約束を得る | 何を望むか決めるまで一年の猶予 |
片方は一年の出家、片方は一年の猶予。期限が、きれいにそろっています。
一年後、出家を終えた里樹が後宮の外にいて、馬閃の手元には「望むもの一つ」の権利が残る。帝がどこまで見越していたかはともかく、並べるとどうしても期待してしまう配置です。
そもそも里樹妃が現帝の後宮へ入ったのは、政略の縁談から守るためでした。手を回したのは現帝と阿多妃(アードゥオヒ)で、里樹妃と阿多妃の母娘のような関係もそこから続いています。
守るために入れた後宮から、守りきれずに出ていく。そう思うと「追放」の二文字、冷たいというより苦い。
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出家後の里樹は家鴨を育てていた|10巻の再会と14巻の行方
出家後の里樹は、紅梅館で家鴨の世話をしています。10巻では、そこへ家鴨の飼い方を教わりに馬閃が現れ、二人は思わぬ形で再会します。
馬閃がやって来たのは、恋のためではなく仕事のためでした。蝗の害を抑えるため、幼虫を食べる家鴨を育てることになり、その飼い方を教わりに来たのです。
アニメ第3期は第49話「蝗」から始まりました。あの蝗の問題が、巡り巡って家鴨と里樹のもとへ馬閃を運んできます。
- 6巻:塔の事件のあと、上級妃から外れて一年間の出家に入る
- 10巻:紅梅館で家鴨を育てる里樹と、飼い方を教わりに来た馬閃が再会する
- 10巻:馬閃は一緒に西都へ来ないかと誘うが、里樹はもっと自信が持てたらと答える
- 14巻:元上級妃・里樹の実家である卯の一族が衰え始め、馬閃の恋も動き出す
再会した里樹は、卵の温度を気にかけ、家鴨の世話を一つずつ覚えていました。後宮で怯えて泣いていた子が、今度は馬閃に飼い方を手ほどきしているんです。
しかも、馬閃の誘いに飛びつかない。もっと自信が持てたら、と返事を先へ延ばします。
馬閃、仕事で家鴨を習いに来たはずが、気づけば口説いている。で、里樹のほうが落ち着いて答えるという。立場、逆転してません?
14巻では、里樹の実家である卯の一族の衰えが話の軸になります。父・卯柳(ウリュウ)と家系図から見る里樹妃の過去を押さえておくと、家の事情がどこで恋の障害になるのか見えやすくなります。
家鴨の前で先送りにされた返事は、その後どこで返ってくるのか。二人の歩みは馬閃と里樹は結婚したのかで、小説・漫画の進み具合と合わせて追えます。
塔の転落から紅梅館の家鴨まで、里樹の変わり方は小説で続けて読むと一番伝わります。6巻の塔の日々を覚えたまま10巻を開くと、あの落ち着いた返事がじわじわ効いてきます。
Web版のその後は違う|里樹妃が自分で選んだ離宮行き
作者が公開しているWeb版では、同じ時期の危機が塔ではなく、離宮へ向かう道中の襲撃として描かれます。しかも離宮行きは、里樹妃が自分から申し出たものでした。
| 比べる点 | 書籍版(小説6巻) | Web版 |
|---|---|---|
| 疑いのきっかけ | 書き写した悲恋物語が恋文と見なされる | 月のものが二月来ず、不貞を疑われる |
| 危機 | 塔で白娘々の香に追い詰められ、最上階から落ちる | 離宮へ向かう途中、侍女の手引きで賊に襲われる |
| 馬閃の行動 | 落ちる里樹を体で受け止め、大けがを負う | 賊と裏切った侍女を取り押さえる |
| その後 | 上級妃から外れ、一年間の出家 | 祭事の名目で離宮へ入る。実質は出家で、いつ戻れるか分からない |
Web版で捕まったのは七人。そのうち三人は、後宮入りの頃から里樹妃に仕えてきた侍女でした。信頼できる侍女は、侍女頭ただ一人という状態だったわけです。
しかもWeb版「十九、里樹妃の決断、馬閃の決断」では、離宮行きが白娘々を護送する偽装を兼ねていました。里樹妃はそれも承知のうえで引き受けています。
危ないと分かっている役目まで抱えて、後宮を出ることを自分で選ぶ。書籍版では追い詰められて落ちていく里樹が、Web版では自分で門をくぐっていく。同じ子なのに、背中の見え方がまるで違います。
襲撃の夜、里樹妃は震えながら手ぬぐいを差し出し、頬から血を流す馬閃の傷へ当てます。
そして別れ際、馬閃は離宮の門の前で「手ぬぐいを!ありがとうございます!!」と叫びます。気の利いた台詞は言えないけれど、黙って帰ることもできなかった。
告白の代わりが、手ぬぐいのお礼の大声。衛兵も顔見知りの武官も聞いてるのに。……いや、もうそれが告白でいいです。
アニメでは何話?塔の事件は第3期第2クール以降になりそう
アニメの里樹妃は、第3期第49話の時点ではまだ塔の事件まで届いていません。第3期は始まったばかりで、物語は5巻の入り口です。
第3期は2026年10月2日から第1クールが始まり、第2クールは2027年4月の放送です。分割の2クール構成になっています。
- 第49話「蝗」:原作小説5巻の冒頭にあたる、蝗の騒ぎから始まる
- 第1期・第2期:それぞれ24話で、原作小説2巻分ずつを描いた
- 里樹妃の転落と出家:原作小説6巻の後半
これまでと同じく1クールで小説1巻分ほど進むなら、第1クールは5巻、塔の事件を含む6巻は第2クールになります。あくまで放送ペースからの予想ですが、塔の事件は来春以降と見ておくのがよさそうです。
その前に、第1クールで描かれそうなのが5巻終盤の西都の宴です。檻を破った獅子に里樹妃が襲われ、馬閃が獅子を止めます。二人の物語は、塔より先にここから動き出します。
第3期の幕開けは、白娘々の噂と蝗の異変から。里樹妃を追い詰める仙女も、家鴨へつながる蝗も、もう最初の1話から動き始めています。
それまでの里樹妃を振り返るなら、第2期第38話「踊る幽霊」が外せません。金剛宮の湯殿に出る幽霊を怖がる里樹妃の話で、宮の内側の問題まで明るみに出ていきます。
馬閃役の橘龍丸さんも、第1期・第2期のお気に入りに、この回で里樹妃が亡き母を思う場面を挙げていました。
馬閃役の人が選ぶのが、よりによって里樹妃の場面。これは偶然で片づけたくないですね。第3期の放送状況はアニメ第3期の配信先と放送日にまとめています。
塔の下で受け止める場面、アニメでどう動くのか今から怖いし楽しみ。半年待つ間、まずは西都の獅子で一回心臓を鍛えておきます。
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まとめ|里樹妃は後宮を降りて、自分の足で立ち始める
里樹妃のその後は、塔からの転落、上級妃からの退場、一年間の出家と続きます。そして出家先の家鴨の世話で、ようやく自分の居場所を見つけていきます。
濡れ衣で塔に入れられ、落ちて、後宮を出る。並べると不運の連続ですが、その先で里樹は、家鴨の世話を任されるところまで来ました。
一番うれしいのは、馬閃の誘いに「もっと自信が持てたら」と返せたこと。守られるばかりだった子が、自分で「まだ」と言えるようになりました。
結局、二人をもう一度会わせたのは蝗と家鴨。恋の橋渡し役にしては、ずいぶん変わった顔ぶれです。そこが好き。
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