『薬屋のひとりごと』の高順(ガオシュン)は、壬氏(ジンシ)の補佐役兼お目付け役です。主の仕事を回す側近であり、主が羽目を外せば手綱を引く見張り役でもあります。
しかもWeb版では、壬氏が乳離れする前から教育係として付いてきた人です。宦官のふりをする壬氏のそばで、同じ苦い薬を先に飲んでいたのも高順でした。
ただ、ずっと隣にいるわけではありません。アニメ第3期の公式人物紹介では、今は皇帝の補佐へ戻り、付き人の役目は次男の馬閃(バセン)が継いでいます。
赤子のころから見てきた主の隣を、自分の息子に譲る。……主従って言葉だけじゃ、ちょっと収まらない二人なんですよ。
※アニメ第2期までの内容に加え、Web版(小説家になろう版)と第3期公式人物紹介の範囲のネタバレを含みます。Web版は書籍・アニメと場面や設定が異なる場合があります。
この記事でわかること
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高順は壬氏の「補佐役兼お目付け役」|後宮で担っていた仕事
高順の立場をひと言でいえば、壬氏の仕事を支える武官です。後宮では壬氏と同じく宦官として振る舞い、男子禁制の場所でも主の隣に立ち続けました。
補佐役は主の仕事を前へ進める側、お目付け役は主を見張る側。向きの違う二つの役目を、高順は一人で同時に背負っています。
アニメ公式の紹介も、第1期は「お目付け役の武官」、第2期は「補佐役兼、お目付け役」。おまけに第2期では、各所からの無茶ぶりに振り回される苦労人とまで書かれています。
公式に「苦労人」と言い切られる従者、なかなかいません。紹介文の時点で、もう胃の心配をしたくなります。
その仕事ぶりが一番よく見えるのは、壬氏の案件を猫猫(マオマオ)へ運んでくる場面です。アニメで高順が動いた回を見ていくと、主従の役割分担がはっきりします。
| 話数 | 高順の動き | 壬氏との役割で見ると |
|---|---|---|
| 第3話「幽霊騒動」 | 夜の城壁へ猫猫を連れて行き、舞う女の姿を確かめさせる | 主が気にかけた噂を、現場まで運ぶ |
| 第7話「里帰り」 | 園遊会で毒が入れられた器を調べるよう、猫猫に頼む | 事件の後始末を主に代わって進める |
| 第15話「鱠」 | 河豚を食べて昏睡した官僚の件を猫猫へ相談する | 壬氏の机にある案件を先に整理して渡す |
| 第17話「街歩き」 | 水蓮(スイレン)と一緒に、里帰りしかけた猫猫を引き止める | 主の街歩きに猫猫が付き添う流れを作る |
| 第28話「鏡」 | 良家の妹が仙人の子を身ごもった謎を猫猫へ持ち込む | 主が特使の難題を抱える間、別件を受け持つ |
噂の確認、毒の調査、昏睡事件。壬氏が抱えた話を高順が下ごしらえして、猫猫へ渡している。猫猫と壬氏の間には、だいたい高順がいます。
呼び方が決まるのも第3話のころ。Web版では夜の城壁へ向かう道すがら、「猫猫さま」と呼んでいた高順が、敬称はいらないと言われた途端に「小猫(シャオマオ)」へ切り替えます。
眉間にしわを寄せた武官が、いきなり「ちゃん」付け。
猫猫も内心、案外軽いのかこのおっさん、と首をかしげます。堅いのか軽いのか、最初の夜から読ませてくれません。
乳離れ前からの教育係|高順が誰より壬氏を知っている理由
高順と壬氏の付き合いは、主従になった日から数えるものではありません。Web版では、壬氏が乳離れする前から教育係として付いてきた男と語られます。
Web版「十二、高順」では、別の仕事で一時離れた時期はあっても、壬氏を最も理解している一人とされます。赤ん坊のころから知っている相手なら、そりゃ顔色も読めます。
アニメでは第33話「先帝」で、玩具を隠されて泣く幼い壬氏が描かれました。泣きじゃくるその子をあやしていたのが、若い高順です。
今の壬氏は、天女のような笑みで官をあしらう人です。その人が昔、高順にあやされて大泣きしていた。今さら高順の前で取り繕っても、たぶん無駄です。
長い付き合いは、思い出だけでなく壬氏の体と振る舞いにも残っています。Web版で目立つのは、高順が主に渡してきたこの四つです。
- 体術:息子の馬閃と同じく、壬氏も高順から体術を学んでいる
- 評価:高順は馬閃に、壬氏のほうが優秀だとはっきり伝えている
- 所作:人前での仕草ひとつまで、若く見えないよう細かく注意する
- 心配:孫の顔はまだ先だと思わせる奥手な主に、もっと遊ばせておけばと嘆く
息子の前で「主のほうが上だ」と言い切る父。馬閃、それはちょっと泣いていい。でも主を一番近くで鍛えてきた人の評価だから、言い返しようもないんですよ。
番外編「高順」は、高順自身の目で主を見る一編です。奥手な壬氏に、もっと過激に遊ばせておくのだったと大きく息を吐く。完全に保護者のため息です。
演じる小西克幸さんも、高順を「壬氏が小さい頃から面倒を見て」きた人物と捉えています。壬氏にお父さんっぽい顔を見せることがある、とも話していました。
壬氏役・大塚剛央さんとの対談では、家庭でも良いお父さんをしているのだろう、とも語られています。
主従っていうより、半分は手のかかる息子を見る目なんですよ。それを口に出して甘やかさないのが、また高順らしい。
その分、自分の家族とは離れて暮らしました。Web版「幕間」では、馬閃が幼いころから父と別々に暮らしてきたのは、皇弟の警護のためだと語られます。
毎日そばにいたのは、自分の子より主のほう。
原作者・日向夏先生の人物紹介によると、高順が壬氏のお付きになったのは、長女の麻美(マーメイ)が物心つく前。家族と顔を合わせるのは年に数度でした。
そのせいか、思春期の麻美には毛虫のように嫌われていたそうです。毛虫の目、こんなところにもいました。主の世話を焼くほど、娘との距離が開いていく。
一方、壬氏の乳兄弟として主のそばにいた馬閃は、父に一番懐いていたそうです。父の背中を一番長く見られたのは、主の隣にいた子だったわけです。
TOHO animationの「Web特別PV ‐高順編‐」は、高順に絞った1分25秒の公式映像です。寡黙な佇まいを、まとめて見たい時にどうぞ。
泣いていた子が、今は書類の山を前に高順から仕事を急かされる側。あやしていた頃から、高順はずっと同じ子の世話を焼いているわけです。
宦官の顔で笑う壬氏と、その後ろで眉間にしわを寄せる高順。後宮時代の二人の掛け合いは、漫画なら高順の困り顔まで絵で追えます。
宦官の仮面を一緒にかぶる|同じ薬を先に飲む高順
後宮の壬氏は宦官として振る舞っていますが、実際には宦官ではありません。高順も同じで、二人は男性としての機能を抑える薬を飲み続けています。
アニメでは第1期第20話「曼荼羅華」で、高順がこの薬を飲んでいたことが明かされます。36歳の高順に孫がいると分かるのも同じ回です。
Web版「十二、高順」では、二人がこの薬を飲む夜がじっくり描かれます。毎晩くり返されてきた、主従だけの手順です。
- 薬を受け取る:猫猫を送り届けた高順が、医局で調合された苦い液体を持ち帰る
- 先に飲む:銀の器に二つへ分け、高順がまず飲み干して、しばらく様子を見る
- 主が飲む:「いつもと同じです」と聞いて、壬氏が鼻をつまんで一気に飲む
- 所作を直す:鼻をつまむと若く見えるから人前ではやめるよう、高順が注意する
高順が先に飲むのは、毒見だからです。主の口に入るものを確かめる役目を、宦官のふりをするための薬にまで通している。さらっと書かれていますが、相当重い。
しかも壬氏は、皇帝から下級妃以下は好きにしろと言われています。それでも「一応のけじめ」として、この薬を飲み続けてきました。
高順は「いやなら飲まなくてもよろしいのに」と言いながら、自分は眉間のしわを深めて先に飲み干す。止める言葉と、やっていることが逆なんですよ。
「貴方さま」と呼ぶ時、高順は仮面の下の主を見ている
この夜の会話でいちばん細かいのが、年齢の話です。表向きの宦官・壬氏は二十四歳ですが、本当の主は十八歳でした。
末子の馬閃の年を聞かれた高順は、十八歳だと答えます。そこで「壬氏さまと同じ」とは言わず、「貴方さまと同じく」と返すんです。
「壬氏」は二十四歳の宦官の名前だから、その名で十八歳とは言えない。仮面の名前と本当の主を、高順は言葉の上でもきっちり分けています。
そのくせ直後には「そのうち、本当に不能になりますよ」と言って、果実酒を噴かせます。さらに孫が生まれた話から「はやく孫を抱かせてください」。壬氏の返事は「努力する」でした。
呼び方ひとつまで気を配って仮面を守る人が、二人きりになると遠慮なく主をからかう。たまには言わせてもらいますよ、という顔の高順、かなり好きです。
高順がそもそも去勢しているのか、宦官名をどう使っているのかは、高順の正体と宦官・去勢の疑問を読むと、この夜の薬の意味がさらにはっきりします。
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諫めても出しゃばらない|「高順」のひと言で通じる距離感
高順は、主の言うことを何でも聞く従者ではありません。仕事を怠ければ諫める。かといって、主の機嫌まで取りにいく甘やかし役でもないんです。
Web版で壬氏と猫猫が絡む場面を見比べると、高順は止める時と、黙ってやり過ごす時をはっきり分けています。
| 場面 | 壬氏のふるまい | 高順の対応 |
|---|---|---|
| 城壁へ向かう道中 | 猫猫に冷たい目で見られたと、帰るなり報告して悦に入る | 毛虫を見るような目はやめてほしいと、猫猫に頼む |
| 園遊会の毒見のあと | 猫猫にべたべたと触れようとする | 助けを求める猫猫に「頼む、耐えてくれ」と目で返す |
| 蜂蜜の一件 | 蜂蜜の小瓶を手に、猫猫との距離をじりじり詰める | 窓辺に座り、空飛ぶ小鳥を眺めている |
| 猫猫が倒れた後 | 書類を前に、窓の外ばかり見て手が止まる | 「仕事に集中してください」と書類の山に手を置く |
毛虫の件で高順が困っていたのは、壬氏への無礼ではありません。猫猫に蔑まれてうっとりする主を、免疫のない者が見たら昏倒しかねず、処理が大変だからです。
主の評判を守るためのお願いが、なぜか主の性癖の後始末。猫猫からすれば、小鳥を眺める高順も、目で「耐えてくれ」と言う高順も、立派な裏切り者です。
一方で、宴で決死の毒見をした猫猫が倒れたあと、壬氏は事情を知りながら協力した高順を許せずにいます。それでも高順は引きません。
むくれる主に、手元の資料は猫猫のおかげで手に入ったものだと突きつける。無駄にするならそれでもいいですよ、と。機嫌は取らない。でも仕事の手綱は離さない。
小西克幸さんはアニメ!アニメ!のインタビューで、高順は壬氏をたしなめることもあると話しています。
ただし相手は主人なので、まっすぐなツッコミに聞こえないよう、常に一歩引いた受け答えを意識しているそうです。表の諫め方まで、ちゃんと従者の位置から外れない。
壬氏役の大塚剛央さんは、壬氏が「高順」と呼ぶだけですべてを感じ取る関係が好きだと語っています。猫猫が推理を進める場面で、よく見られるやり取りです。
名前ひとつで用件が通じる。猫猫が謎を解いている横で、主従の会話は「高順」の二文字で済んでいるんです。
アニメでも、第7話では高順の前でつい素が出る壬氏が、第14話では猫猫に優しくする高順へやきもちを焼く壬氏が見られます。主が一番子どもっぽくなる相手は、高順なんです。
猫猫に優しくしただけで、主からやきもちを焼かれる従者。高順、胃がいくつあっても足りません。
小西さんは猫猫と壬氏の関係についても、高順なら「壬氏様は、どうしたいのか」をまず一番に考えるだろうと話しています。主の恋の行方でさえ、先に主の気持ちを確かめてから動く人です。
壬氏の周りで世話を焼くのは高順だけではありません。侍女の水蓮まで含めた主の素顔は、壬氏のプロフィールと並べると、高順の苦労の出どころがよく分かります。
主を諫めながら一歩引いてきた高順は、この先、壬氏の隣を息子へ譲ることになります。息子に隣を譲っていくまでの二人は、原作小説の続きで追えます。
馬閃に役目を託し、皇帝の補佐へ|離れても「借りられる」高順
高順は、最後まで壬氏の付き人のままではありません。今は皇帝の補佐という本来の仕事に戻り、壬氏の警護は次男の馬閃が受け継いでいます。
アニメ第3期の公式人物相関図は、高順を「もともとは壬氏のお目付け役」と紹介しています。まだ未熟な息子・馬閃を心配している、とも添えられていました。
「本来の仕事」と書かれるのも当然で、高順はもともと主上の乳兄弟です。Web版「二十一、馬と卯」で、麻美が父のことをそう紹介しています。
役目の受け渡しは、ある日突然の辞令ではありません。Web版で追うと、子の一族の反乱を境に、少しずつ父から息子へ移っていきます。
- 幼少期:馬の一族に生まれた高順が、主上の乳兄弟として育つ
- 後宮時代:高順が補佐役兼お目付け役として、宦官の壬氏に付き従う
- 子の一族の制圧:戦いに付いたのは馬閃。壬氏が顔に傷を負い、馬閃は父の拳骨で顔を腫らす
- 市井編:馬閃が父に代わって、皇弟である壬氏の警護に就いている
- 砂欧編:遠出の際、壬氏が主上から高順を借りて同行させる
- アニメ第3期:公式人物紹介で、高順は皇帝の補佐へ戻った人物とされる
アニメでは第46話「禁軍」で、紫紺の甲冑に身を包んだ壬氏が禁軍を率いました。Web版では、この制圧に付き添っていたのは高順ではなく馬閃です。
壬氏は頬に傷を負い、付き添った馬閃は父の拳骨で顔を腫らします。猫猫は、殴られたのは父の信頼を裏切ったからかもしれないと考えます。
高順が息子かわいさで護衛に付けるはずはない、というのが猫猫の見立て。当の壬氏は頬の傷にさらしを巻き直しながら、「高順の拳骨はあれでけっこうきく」と馬閃に同情しています。
殴られた側より、殴られた理由のほうが重い。そしてその馬閃が、やがて父の持ち場をそのまま引き継ぎます。
Web版「幕間」の馬閃は、父に代わって皇弟の警護をしています。兄ではなく自分が選ばれたことに、戸惑いとやる気を同時に抱えたままです。
その馬閃は、壬氏に一番近い部下は「高順をのぞいて」自分だと思っていました。父を抜いて一番、とは思わない。馬閃の中でも、高順の席だけは別格なんです。
遠出には主上から「借りてくる」|離れても変わらない呼吸
Web版「四、訪問」で、壬氏は人材について少しわがままを通し、馬閃ではなく高順を連れて出かけます。主上から借りてきたんです。
理由は、まだ高順のほうが補佐を上手くこなすから。そして主上が高順を使って仕事を楽にしていたことへの、ちょっとした意趣返しでもありました。
皇帝から従者を「借りてくる」弟。しかも理由の半分が仕返しって、壬氏も大概ですよ。
道中の高順は、壬氏の不安げな顔を読めば先回りして説明を入れます。李白(リハク)の少しくだけた態度にも黙ったまま。主の気が楽だと分かっているからです。
壬氏の見立てでは、これが馬閃なら李白に噛みついている。ちらりとも目を向けない高順が、主の言いたいことは汲んでいる。役職が変わっても、この呼吸は変わりません。
役目を継いだ馬閃の年齢や役職は、馬閃の正体とプロフィールで確かめられます。父と比べてどこが未熟と言われるのかも見えてきます。
馬の一族は、代々皇族の乳兄弟になることが多い家です。高順の妻子と壬氏のつながりは、高順の息子・娘と家系図から一族ごとたどれます。
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まとめ|高順と壬氏は、仮面の下まで知っている主従
高順は、壬氏の補佐役兼お目付け役です。Web版では乳離れ前からの教育係で、後宮では同じ薬を先に飲み、宦官の仮面を一緒に支えてきました。
泣く主をあやし、所作を叩き込み、宦官の仮面を一緒にかぶってきた人。だから高順は、仕事中は容赦なく諫めるのに、二人きりでは平気で孫の話を振れるんですよね。
付き人を離れても、壬氏が遠出するとなれば皇帝から借りられてくる。隣にいるかどうかより、主の呼吸を分かっていることが、この主従の芯です。
次にアニメで高順が眉間にしわを寄せていたら、ちょっと思い出してください。あの人、この主を乳飲み子のころから知っているんですよ。
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