『薬屋のひとりごと』(薬屋)の梅梅(メイメイ)が想いを寄せていた相手は、羅漢(ラカン)です。作中で本人が「好き」と口にする場面はありません。
それでも答えはかなりはっきりしています。身請けの相手に選ばれかけた瞬間、梅梅は自分から扉を開け、死んだと思われていた鳳仙(フォンシェン)の歌声を羅漢に聞かせました。
そして羅漢が鳳仙を選んだあと、泣き崩れる。原作小説では、その涙に「私が期待する前に終わっていればよかったのに」という一言まで続きます。
選ばれかけた本人が、自分で扉を開けて身を引くんですよ。……優しいを通り越して、ちょっと格好よすぎませんか、この人。
梅梅の恋が終わるのは、アニメ第1期第24話(2024年3月放送)、原作小説では2巻の場面です。きっかけは妹分の猫猫(マオマオ)が仕掛けた賭けで、その後の身請けは原作13巻で描かれます。
※この記事は『薬屋のひとりごと』原作小説13巻までのネタバレを含みます。
この記事でわかること
| 人物 | 梅梅との関係 | 梅梅の恋での立ち位置 |
|---|---|---|
| 羅漢 | 禿の頃に碁を教わった、鳳仙の客 | 梅梅の想い人。身請けで梅梅を選びかける |
| 鳳仙 | 禿として仕えた「大姐」 | 羅漢が本当に想い続けた妓女。離れで病に伏せている |
| 猫猫 | 妹のように世話を焼いてきた子 | 羅漢と鳳仙の娘。身請けを賭けた象棋を羅漢に挑む |
| やり手婆 | 梅梅が勤める緑青館の主 | 鳳仙が生きていることを羅漢に伏せてきた |
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梅梅の好きな人は羅漢|「好き」と言わない恋が見える3つの場面
梅梅の想い人は羅漢です。恋だと語られることはなく、長年の態度と扉の前の行動、そして涙の言葉が積み重なって答えになっています。
梅梅が身請けを期待していた相手は羅漢。ただし「好き」という言葉は使われず、原作でも「期待」という言い方にとどまります。
| 梅梅の行動 | どんな場面か | 描かれる媒体 |
|---|---|---|
| 変わらず羅漢の相手を続けた | 緑青館で邪険にされ続けた羅漢に、梅梅だけは以前と同じ態度で接し、碁や会話の相手をした | 原作・アニメ |
| 選ばれかけて扉を開けた | 羅漢に手を取られかけた直前、「選ぶなら、ちゃんと選んでくださいね」と離れへ続く扉を開けた | アニメ第24話・原作2巻 |
| 泣き崩れて「期待」を口にした | 鳳仙を身請けすると決めた羅漢の後ろで泣き、原作では「私が期待する前に終わっていればよかったのに」と続ける | 原作2巻(アニメは前半の言葉のみ) |
一つ目だけなら、昔なじみへの面倒見とも読めます。二つ目も、妓女としての筋の通し方と言えなくはない。
決め手は三つ目の「期待」です。期待していなければ、「期待する前に終わっていれば」とは言いません。
羅漢に選ばれるかもしれない。その見込みを梅梅自身が抱いてしまっていたことが、この一言でほぼ確定します。
一方で、梅梅がいつから、なぜ羅漢に惹かれたのかは、身請けの場面までにはっきり描かれていません。禿時代からの初恋かどうかは、読む側に委ねられています。
恋の始まりはぼかされているのに、終わり方だけは容赦なくくっきりしている。その終わりが重く響くのは、梅梅と羅漢のあいだに長い年月があったからです。
梅梅は、白鈴(パイリン)・女華(ジョカ)と並ぶ緑青館の三姫の一人。猫猫が姉のように慕う三姫の中でも、宮廷へ戻る猫猫に身の回りの品をどっさり持たせる世話焼きです。
梅梅と羅漢の縁|禿時代の碁から、ただ一人で相手を続けた年月
二人の付き合いは、梅梅がまだ禿だった頃に始まります。鳳仙のそばに仕える子どもへ、鳳仙のもとに通う羅漢が碁を教えていました。
- 禿の頃:鳳仙付きの禿として、象棋や碁の勝負に通う羅漢と出会い、碁を教わる
- 鳳仙との一件:鳳仙が羅漢の子を身ごもって身請け話が破談になり、羅漢は緑青館から締め出される
- 追い返される羅漢:鳳仙の産んだ猫猫を引き取ろうと通っては邪険にされる羅漢に、梅梅だけは以前と変わらず接する
- 賠償を払い終えた後:緑青館で羅漢の相手をするのは梅梅。身体ではなく、碁と会話の相手として向き合い続ける
- 離れの鳳仙:一方で、病に伏せる鳳仙を度々見舞う。羅漢は鳳仙が死んだと思い込んだまま
並べると、梅梅は羅漢と鳳仙の両方のいちばん近くにいた人です。羅漢の碁の相手をしながら、羅漢が死んだと思っている鳳仙の病室にも通っていた。
両方の事情を知っていて、片方には言えないまま何年も過ごす。碁盤を挟んで羅漢と向き合う時間に、梅梅は何を飲み込んでいたのか。想像するだけで息が詰まります。
第18話「羅漢」では、猫猫が離れの鳳仙へ薬を届けます。梅梅も「大姐、今日は具合よさそうね」と鳳仙に声をかけていて、この見舞いが特別な一日ではないことが伝わってきます。
羅漢には、人の顔が碁石に見えます。その中ではっきり顔を見分けられた数少ない相手が、鳳仙でした。
羅漢の顔の見え方を知ってから梅梅の側に立つと、かなり切ない。どれだけ長く向き合っても、羅漢の目に映る梅梅の顔は碁石のままでした。
羅漢がなぜそこまで鳳仙にこだわったのか。その過去は、第1期最終話の直前に公開された羅漢編の公式PVでもたどれます。梅梅が長年向き合ってきた男の、もう一つの顔です。
その羅漢と、何年も碁を打ってきたのが梅梅です。羅漢が大姐をどれだけ想っていたか、梅梅は誰よりも近くで見てきたはずです。
ちなみにWeb版の「鳳仙花と片喰」では、羅漢が、今は三姫と呼ばれるかつての禿たちから「猫猫の意思を尊重しろ」と言われています。鳳仙のそばにいた子どもたちが、大人になって羅漢にきっちり釘を刺している。
禿の梅梅が羅漢から碁を教わり、大人になって身請けの列に並ぶ。その年月を頭に入れてから漫画で羅漢の回想と身請けを続けて読むと、梅梅が扉を開けるまでの流れがまるで違って見えます。
「選ぶならちゃんと選んでくださいね」|羅漢に選ばれかけた梅梅が扉を開けた理由
猫猫との象棋に負けた羅漢は、緑青館の妓女を一人身請けすることになります。並んだ女たちの中から羅漢が手を取ろうとしたのが、梅梅でした。
そもそも猫猫は賭けの条件を出すとき、「誰とは言いませんが、やり手婆が年頃の妓女を片付けたがっていますので」と前置きしていました。名前を伏せるあたりが、いかにも猫猫です。
- 三姫も並ぶ:やり手婆は、三姫も含めて好きな妓女を選ばせると言う
- 羅漢の心の声:どんなに着飾った妓女も碁石にしか見えない。ならば、よくしてくれた梅梅に報いてもいい
- 梅梅の一言:「ですが、選ぶなら、ちゃんと選んでくださいね」と告げ、離れへ続く扉を開ける
- 歌声:離れから鳳仙のわらべ歌が聞こえ、羅漢は病人部屋へ走り出す
- 身請けの決断:やせ細った鳳仙を前に、羅漢は「この女で頼む」とやり手婆に告げる
羅漢が梅梅を選ぼうとした理由は、心の声のとおり「報いる」でした。恋ではなく、世話になったお礼としての身請けです。
| 羅漢の態度 | 鳳仙に気づく前 | 鳳仙を選んだ時 |
|---|---|---|
| 選ぶ理由 | よくしてくれた梅梅に報いる | 鳳仙花のような美しい女だから |
| 身請け金 | 銀1万、足りなければ2万でも3万でも。10万はちときつい | 10万でも20万でも払ってやる |
| 目に映る顔 | ほかの妓女と同じく碁石 | 痩せた病人なのに、誰よりも美しく見える |
羅漢、さっきまで「10はちとキツい」と渋っていたのは誰ですか。鳳仙が相手だと、値切るという発想ごと消えるんですね。
笑ってしまうけれど、梅梅の側から見れば笑えない差です。自分がどの位置にいたのかを、扉一枚で突きつけられたのですから。
羅漢が梅梅の手を取ろうとした瞬間に扉が開くのは、第1期最終話の第24話「壬氏と猫猫」です。最終話の幕開けが、梅梅の恋の幕引きでもありました。
選ばれる寸前に、梅梅が自分で扉を開けた理由
梅梅は羅漢の手を拒んだわけではありません。「もし、お望みでしたら何のためらいもございません」と、選ばれる覚悟まで口にしたうえで扉を開けています。
選ばれる寸前で、梅梅は鳳仙が生きていることを羅漢に気づかせる道を選びました。
羅漢は鳳仙が死んだと思い込み、緑青館も離れの病人のことを伏せてきました。梅梅が扉を開けなければ、羅漢はそのまま梅梅の手を取っていたかもしれません。
本当に想っている人が生きているのに、知らせないまま「お礼」で選ばれる。梅梅が口にした「妓女のプライド」は、そこを許さなかったのだと思います。
それに梅梅にとって鳳仙は、禿として仕えた大姐です。見舞い続けてきた人を離れに残したまま、自分だけ外へ出ていく道は選べなかったのでしょう。
選ばれる側にいながら、選ぶ材料を差し出した人。
梅梅が開けた扉の先で、羅漢と鳳仙はどんな時間を過ごしたのか。羅漢と鳳仙の身請けまでの過去とその後まで追うと、梅梅が手放したものの大きさが見えてきます。
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梅梅の涙の理由|アニメの「どうしてもっと早く」と原作だけにある「期待」
羅漢が鳳仙の手に碁石を置き、「碁をやろう」と笑う後ろで、梅梅は泣き崩れます。その涙には、鳳仙への悔しさと自分の恋の終わりが重なっています。
アニメで梅梅が口にするのは、鳳仙への言葉です。「大姐、最初から素直になっていればよかったのに」「どうして、もっと早く」。
鼻が欠けた顔を恥じて、娘の猫猫まで遠ざけていた鳳仙。羅漢はその姿を見ても迷わず選びました。こんなに迷わず選ばれるなら、もっと早く会わせたかった。
原作小説は、そこへもう一言足します。「私が期待する前に終わっていればよかったのに」。ここで涙の向きが、鳳仙から梅梅自身へ変わります。
| 媒体 | 梅梅の言葉 | 涙の見え方 |
|---|---|---|
| アニメ第24話 | 「大姐、最初から素直になっていればよかったのに」「どうして、もっと早く」 | 鳳仙への悔しさと、再会を見届けた安堵が前に出る |
| 原作小説2巻 | アニメと同じ言葉に「私が期待する前に終わっていればよかったのに」が続く | 鳳仙を思う涙に、自分の恋の終わりが重なる |
| Web版(小説家になろう) | 身請けの場面そのものがない | 羅漢は鳳仙を身請けせず、梅梅の涙も描かれない |
「期待」は、羅漢に選ばれるかもしれないと思ってしまった気持ちそのものです。期待さえしなければ、ここまで痛くはなかった。
選ばれるかどうかを待つ側に立ったことがあれば、覚えのある悔やみ方かもしれません。終わりが遅かったぶん、傷は深くなりました。
しかも幕を引いたのは、扉を開けた梅梅自身。それでも、つらいものはつらい。
原作のこの場面は羅漢の側から語られ、梅梅は「泣いているらしい」と嗚咽だけで描かれます。なぜ泣き崩れるのか、羅漢には分かりません。
そこ分からないの、羅漢……。いや、鳳仙しか目に入っていない今の羅漢に、背中越しの涙まで読めというのは無理か。無理ですね。
アニメは「期待」の一言を入れず、鳳仙と羅漢の再会を見届ける涙として場面を閉じています。梅梅の失恋まで確かめたいなら、原作2巻の同じ場面が答えです。
アニメだけ見ていると、梅梅は「大姐思いの優しい人」で終わります。原作を読むと、その優しさの裏で自分の期待にも幕を下ろしていたと分かる。同じ涙なのに、重さがまるで違います。
アニメで聞けなかった「期待」の一言は、原作小説2巻のこの場面で読めます。羅漢の目線で進む地の文だからこそ、背中越しに届く嗚咽が耳に残ります。
猫猫は梅梅の恋に気づいていた?「本当は梅梅小姐を送りたかったな」の意味
猫猫が梅梅の恋心をどこまで知っていたのか、作中で答えは出ません。それでも第24話の猫猫は、梅梅が身請けされる未来を望んでいたように見えます。
後宮に戻って数日後、梅梅から猫猫へ行李が届きます。中身は、誰が誰に身請けされたかを書いた手紙と、美しい布帛(ひれ)でした。
手紙によれば、羅漢は三日三晩どころか七日七晩の宴を開くらしい。泣き崩れた数日後に、この報告まで添えてくる。梅梅、仕事ができすぎます。
梅梅の「私が身請けされる時は、ちゃんと踊るのよ」を思い出した猫猫が、心の中でつぶやいたのは「本当は、梅梅小姐を送りたかったな」でした。
花街では、身請けされる妓女をほかの妓女が舞で見送るのが習わしです。梅梅は、自分が出ていく日の舞を猫猫に託していました。
- 第23話:誰とは言わずに「年頃の妓女」の身請けを賭けの条件にする
- 原作2巻:枯れた青い薔薇の箱に文を忍ばせ、羅漢が気づかなければ「気のいい妓女の小姐さま」を身請けすればいいと考える
- 第24話・手紙:身請けされたのが梅梅ではなく鳳仙だったと、梅梅自身の手紙で知る
- 第24話・舞:紅を引き、届いた布帛を手に、外壁の上で身請けされた妓女を送る舞を踊る
猫猫は鳳仙へつながる手がかりを羅漢に渡しながら、気づかなければ「気のいい妓女の小姐さま」でいい、とも思っていた。第23話の前置きと合わせれば、その小姐はまず梅梅でしょう。
どちらに転んでも、誰かが救われて誰かが取り残される賭けでした。
結果、猫猫が舞で送ったのは梅梅ではなく鳳仙でした。しかも手にした布帛は、梅梅が送ってきたものです。
梅梅に教わった舞を、梅梅から届いた布で、梅梅が選ばれなかった身請けのために踊る。並べてみると、皮肉が過ぎて言葉が出てきません。
城壁での舞は、挿入歌「想い咲く時」の本編映像として公式に公開されています。猫猫が手にしている布帛の送り主は、梅梅です。
毒と薬のことしか頭にないような顔をして、梅梅の見送りだけは自分の役目だと思っていたの、猫猫ずるくないですか。
猫猫が城壁で舞った理由を鳳仙の側から読むと、母への見送りです。けれど梅梅の側から見ると、果たせなかった約束の代わりの舞にもなっています。
二人の近さは、2026年1月の「猫猫、壬氏と巡る四季」の椿のビジュアルにも出ています。椿の小道を歩く二人の一枚を、公式は「梅梅の前だからこそ見せる猫猫の表情」と紹介しました。
椿の小道を二人で歩く姿が公式の一枚になるくらい、梅梅は猫猫にとって近い姉です。その姉を自分の舞で送るという約束は、このあと思わぬ形で宙に浮きます。
梅梅の恋のその後|羅漢の紹介で出会った棋聖に、弟子として身請けされる
※ここから原作小説13巻までの内容に触れます。アニメでは描かれていない展開です。
羅漢への恋は実りませんでした。それでも梅梅は、のちに緑青館を出ます。身請けしたのは、帝の碁の指南役を務める棋聖です。
- 羅漢の西都行き:西都へ発つことになった羅漢が、棋聖から碁の相手を探すよう頼まれる
- 梅梅を紹介:羅漢が推したのは、長年碁の相手をしてきた梅梅だった
- 棋聖が通う:棋聖はしばらく梅梅のもとへ通い、碁を打つ
- 弟子として身請け:棋聖は妾ではなく弟子として引き取りたいと申し出て、梅梅は緑青館を離れる
- 猫猫の不在:猫猫は西都にいて旅立ちに立ち会えず、この身請けは原作13巻で明らかになる
羅漢が梅梅に渡せたのは、恋ではなく、碁の腕を認めてくれる居場所でした。禿の頃に碁を教えた相手を、帝の碁の師匠のもとへ送り出したことになります。
報われなかった恋の相手が、梅梅の腕前だけは誰よりも正しく見ていた。救いのようで、ちょっと悔しい結末です。
「ちゃんと踊るのよ」の約束は、梅梅のためには果たせないままでした。
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まとめ|梅梅の好きな人は羅漢。扉を開けたのは、恋より大姐を選んだから
梅梅の想い人は羅漢です。「好き」とは言わないものの、身請けで選ばれかけた場面と、原作の「期待」の一言がその答えになっています。
選ばれる手前まで来た恋を、自分の手で終わらせる。梅梅の強さは、泣かずにいられたことではなく、泣くと分かっていて扉を開けたことにあります。
そして猫猫は、その優しさを知っていたからこそ梅梅を送りたかった。羅漢と鳳仙の再会の陰で、姉と妹分の物語も静かに一区切りついていました。
考えてみると羅漢、碁の相手も梅梅、鳳仙にたどり着けたのも梅梅のおかげ、棋聖に碁の相手を頼まれて推したのも梅梅。この男、梅梅に頼りすぎでは?
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