アニメ『ダンダダン』でアクロバティックさらさら(アクさら)を演じている声優は、井上喜久子さんです。自己紹介では今も「17歳です」と名乗る大ベテランです。
第6話の放送後には、「誰かわからなかった」という声まで上がりました。赤いワンピースの怪異から、ベルダンディーの声が出てくるとは思いません。
そして第7話。母親だった頃のアクさらが路上を走る場面の荒い息には、井上さん自身が20年ほど前に娘のもとへ全力で走って戻った記憶が重ねられていました。
「17歳です」と名乗る人の芝居で、母親の息切れに泣かされる。情報量が多すぎます。
※この記事は、アニメ第1期第7話(原作漫画17話)までの内容に触れます。
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井上喜久子はどんな声優?1988年デビュー、自称「永遠の17歳」
井上喜久子さんは、オフィスアネモネに所属する声優です。1988年にデビューし、40年近くアニメ・吹き替え・ゲームの第一線で声を当ててきました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所属 | オフィスアネモネ |
| 誕生日・出身 | 9月25日生まれ、神奈川県出身 |
| デビュー | 1988年 |
| 主な受賞 | 第4回声優アワード助演女優賞、第10回声優アワード高橋和枝賞 |
| 特技・資格 | 華道(池坊流師範)、中学国語の教員免許、図書館司書教諭免許 |
| 『ダンダダン』の役 | アクロバティックさらさら(第1期) |
名乗りの「17歳」は、長年の持ちネタです。2022年に出した初の自叙伝からして、題名が『井上喜久子17才です「おいおい!」』。
ツッコミの「おいおい!」まで題名に入れて、読者の手間を省いてくれる人です。
『ダンダダン』の公式ポッドキャスト「ダンダ談話室」第8回でも、自己紹介はやはり「17歳です」。アクさらの重い回を振り返る番組が、この一言から始まります。
私生活では一人娘の母で、娘の井上ほの花さんも2015年から歌手・声優として活動しています。この「お母さん」という顔が、アクさらの芝居にそのままつながってきます。
アクさらの登場はアニメ第6話・第7話|原作は13話から17話
アクさらの声をたっぷり聞けるのは、アニメ第1期の第6話「ヤベー女がきた」と第7話「優しい世界へ」です。原作漫画では13話から17話にあたります。
配役の発表は、放送開始前の2024年9月17日。モモやオカルンの前に現れる“怪異たち”のキャストとして、関智一さんや杉田智和さんと一緒に名前が出ました。
- 第6話(2024年11月7日深夜):オカルンの金の玉を拾って“見えないもの”が見えるようになったアイラの前に、赤いワンピースの女が現れる
- 第6話:アクさらはモモとオカルンまで食べてしまう。腹の中でアイラのロザリオ型ライターに火がつき、3人は外へ
- 第7話(2024年11月14日深夜):戦いのあと、アイラは息をしていなかった。アクさらは自分のオーラを渡すと言い出す
- 第7話:アクさらが娘を育てる母親だった頃と、娘を奪われた夜が明かされる
- 第7話:オーラを渡して崩れていくアクさらを、目を覚ましたアイラが抱きしめ、「お母さん、愛してる」と伝える
第6話は、ほぼ人を食べる怖い怪異の声です。第7話になると、同じ人物の声が母親の声へ変わります。井上さんの仕事は、この2話のあいだの落差そのものと言っていい。
第6話の放送直後には、「喜久子さんの声だった!?」と驚く感想が並びました。
アイラからすれば、金の玉で見えるようになったと思ったら、ベルダンディーの声の怪異に食べられるわけです。運がなさすぎる。
第7話にはアクさらの娘も登場し、声は木野日菜さん。放送後に本人もXで報告しています。さらわれる場面の泣き声に、演者まで本当にさらわれていたのではと感じた人もいました。
アクさらが「お母さん」にこだわった理由は、原作14話のネタバレ感想・考察で追えます。ほかの怪異の声は、アニメの声優一覧へ。
アクさらが初めて現れる13話と、「お母さん」と呼べと迫る14話は原作2巻。食べられた3人がどう外へ出たのか、ライターの一コマを龍幸伸先生の絵で確かめられます。
第7話の息遣いは実体験から|井上喜久子が娘のもとへ走った30秒
第7話の冒頭、母親だった頃のアクさらが路上を走る場面。あの苦しそうな息には、井上さんが娘を見失いかけた日の記憶が乗っています。
本人がその話をしたのは、2024年11月22日配信の「ダンダ談話室」第8回です。MCはアイラ役の佐倉綾音さんでした。
- 20年ほど前:南の島へ旅行し、ホテルの中にある大きなプールで、まだ小さかった娘と2人で遊んでいた
- 部屋へ:忘れ物を取りに行こうと、浅いところで遊ぶ娘から少しだけ離れる
- 気づく:歩く途中、そのプールが途中から深くなり、大人でも足がつかないと分かる
- 30秒ほど:娘が溺れているかもしれないと、半泣きで全速力で走って戻る
- 2024年、第7話:娘を探して走るアクさらの場面で、その時の恐怖と息遣いを思い出して声に乗せた
この話を引き出したのは、佐倉さんの感想でした。走る場面の息が、ただの息切れではなく、何かに追いつこうとするような苦しい音に聞こえた、と。
井上さんは、娘を探しに走る母親のつらさを「人生で最大の辛さ」だろうと話しています。自分が味わったのは、その入口の30秒だけ。そこから先を、芝居で埋めたことになります。
溺れていないかと走った30秒が、20年後、娘を奪われた母親の息になる。
良いことも悪いことも、声優はいつか全部を作品に生かせる時がある。番組ではそうも話していました。佐倉さんの返しは「大きくなってよかった」。聞く側も、まずそこでほっとします。
Netflix Japanの公式クリップには、雨の夜道を進む一人称の映像から、娘に抱きつかれた記憶までが入っています。息遣いを確かめるなら、このあたりを音量を上げて。
談話室の同じ配信回には、山代風我監督からのコメントも届いていました。回想はアクさらの記憶と、すり切れた心がテーマ。絵の側も、記憶の薄れ方に合わせて作られています。
| 第7話の過去の場面 | 監督コメントで語られたねらい |
|---|---|
| 回想全体 | いつもの作風から少しリアルに寄せ、異質な印象にする |
| 記憶が薄れている場面 | 色を淡くぼかし、自分の使命を思い出して目的がはっきりすると画面に色がつく |
| 娘と星を見る場面 | 土手ではなく自宅のベランダに変え、幸せな場所を家の中にそろえる |
| 屋上で踊る場面 | 雨上がりの水たまりに星を映し、星空の中で踊るように見せる |
絵は記憶を薄めたり色づけたりし、声は20年前の恐怖を持ち込む。同じ母親の記憶を、監督は色で、井上さんは息で描いていたわけです。
アクさらが人間だった頃の過去は原作16話のネタバレ感想・考察で、最後の母と娘の場面は原作17話のネタバレ感想・考察で振り返れます。
母親だった頃を描く16話と、「お母さん、愛してる」の17話は原作3巻です。監督が土手から自宅のベランダへ移した星の場面を、原作の絵と並べてみてください。
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井上喜久子がアクさらについて語った言葉|「どうしようって悩んだ役」から「声優人生の全て」へ
放送前の予告から、放送後の振り返りまで。アクさらについての井上さんの言葉は、回を追うごとに重くなっていきます。
- 2024年9月17日:怪異役のキャストとして、アクロバティックさらさら役が発表される
- 9月18日:スタッフと運営するXで「アクさらは恐ろしい妖怪ですが、ものすごいストーリーがあるんです!」
- 11月14日(第7話の放送日):Xで「私の持てる全ての力を出しきって臨ませていただきました」
- 11月17日:『メタルギアソリッド3』の小島秀夫監督が、Xで第7話の演技に触れる
- 11月22日:ダンダ談話室第8回で、プールの記憶と役への思いを話す
キャスト発表の翌日、井上さんは役についてこう書いています。
「恐ろしい妖怪」で止めずに、「ものすごいストーリーがある」と付け足しています。第6話だけ見た人には、謎かけのような予告でした。
談話室の最後、アクさらは最初「どうしようって悩んだ役」だったと振り返りました。そして「自分の声優人生の全てをかけてやることができるような」キャラクターに出会えた、と。
デビューから36年、「声優人生の全て」をかけた相手の名前が「アクロバティックさらさら」。井上さん、役名を口にするたび力が抜けませんでしたか。
配信タイトルも「『ダンダダン』は、私が生きてきた色々なものを放出することができた作品!」。プールの話も監督のコメントも、公式チャンネルで聞けます。
小島秀夫監督「ザ・ボスを軽く抜いた」
第7話の放送から3日後、ゲームクリエイターの小島秀夫監督がXに感想を書いています。
ザ・ボスは、小島監督の『メタルギアソリッド3』で井上さんが演じた役です。生みの親が、自分のゲームの看板を物差しにして「軽く抜いた」。
「抜いた」だけで十分なのに、「軽く」まで付いています。翌日には井上さん側のXも、小島監督へお礼を返していました。
佐倉綾音さん「向かって行きたい方向が一緒だった」
アイラ役の佐倉さんは、J:COMのインタビューで第7話のアフレコを振り返っています。現場はみんな泣いていたのに、佐倉さんは井上さんの芝居をじっと観察していたそうです。
理由は、このあとアクさらの力を宿したアイラも演じるから。ところが見ていると、テープオーディションで自分が出した芝居と、井上さんのアクさらに「あまり相違がない」。
佐倉さんは、二人の「向かって行きたい方向が一緒だった」のが嬉しかったと話しています。変身後のアイラにアクさらの面影が自然に重なるのは、テープの時点で向きがそろっていたから。
佐倉さんの側から見たアイラの役作りは、アイラ役・佐倉綾音さんの記事で詳しく読めます。
井上喜久子の代表作|ベルダンディーからしまじろうのお母さん、ザ・ボスまで
アクさらで井上さんの名前を覚えた人が出演作を見ると、振り幅に驚くはずです。
| 作品 | 役 |
|---|---|
| ああっ女神さまっ | ベルダンディー(主役) |
| らんま1/2(1989年版・2024年版) | 天道かすみ |
| CLANNAD ~AFTER STORY~ | 古河早苗 |
| しまじろうシリーズ | しまじろうの母(しまのさくら) |
| 鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST | ラスト |
| はたらく細胞 | マクロファージ |
| 鬼滅の刃 無限列車編 | トミ |
| メタルギアソリッドシリーズ(ゲーム) | ザ・ボスほか |
| バイオハザード ヴィレッジ(ゲーム) | オルチーナ・ドミトレスク |
やさしい女神と、しまじろうのお母さんと、ドミトレスク夫人が同じ人。温かい母の声も、怖い女の声も、どちらも手持ちの札です。アクさらは、その両方を一人で使う役でした。
母親役の話でいちばん好きなのは、娘のほの花さんが保育園に通っていた頃のこと。園でしまじろうのお母さんを見て、友達に「これ私のママ」と自慢していたそうです。
聞いた井上さんは「やめて~!」。2022年の文春オンラインのインタビューで、笑いながら明かしています。
自慢されたお母さんの声と、娘を奪われた母親の息が、同じ人から出ている。
2024年の新作『らんま1/2』でも、井上さんは1989年版に続いて天道かすみ役です。
同じ作品の九能小太刀は佐倉さん。アクさらとアイラは、別の作品でも共演しています。
ほかの出演作は、オフィスアネモネの井上喜久子さんのプロフィールで確認できます。ボイスサンプルには「母親」と「悪の女王」が並び、アクさらの二つの顔を聞き比べられます。
ターボババアとの掛け合いも嬉しかったと、井上さんは談話室で話していました。田中真弓さんの役作りは、ターボババア役・田中真弓さんの記事で読めます。
アクさらの声優についてよくある質問
舞台版のアクさら、変身後のアイラの声、そして娘のその後。アクさらの声から広がる疑問に答えます。
舞台版でアクさらを演じたのは誰?
2026年に上演された舞台「ダンダダン」~Occultic Stage~では、山崎里彩さんがアクロバティックさらさら役でした。アニメの井上さんとは別のキャストです。
変身後のアイラの声は井上喜久子さん?
いいえ、佐倉綾音さんです。アクさらの力を宿したアイラも、普段と同じく佐倉さんの声。井上さんと芝居の方向がそろっていたので、似て聞こえるのも無理はありません。
アクさらの娘はその後どうなった?
アニメ第7話(原作17話)までには、連れ去られた娘のその後は描かれていません。アクさら自身も、何をなくしたのか分からないまま怪異としてさまよっていました。
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まとめ|アクさらの声は井上喜久子、第7話の息は母親としての記憶
アニメ『ダンダダン』のアクロバティックさらさら役は、井上喜久子さんです。第6話の怖い怪異の声と、第7話の母親の声を、一人で演じ分けています。
最初は「どうしようって悩んだ」役に、自分の母親としての記憶まで差し出した。第7話で泣いた人が聞いていたのは、20年前の30秒から持ってきた息でした。
談話室の最後、佐倉さんは井上さんを「みんなのお母さん」と言いかけて、慌てて「みんなの17歳」に言い直していました。アクさらの回くらい、言い直さなくてよかったのに。
※当サイトで使用しているイラストは、記事内容を補足するイメージです。特定の著作物・キャラクター・場面の再現を目的としたものではありません。本記事は作品公式および関係各社とは関係のない非公式記事であり、感想・考察には当サイトの見解を含みます。
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